「ホラ!1年!何してるの!早く並びなさい!」
「もっと大きな声を出して!ちゃんと踊るんだよ!」
こんな声が、新学期が始まって数週間、学校のありとあらゆる場所で、毎日聞こえた。
学科ごとのグループで”ラップノーン”という儀式が行われていたのだ。
これは新学期始まりをつげる、タイの大学では恒例の行事である。
ラップとは「受け入れる」。
ノーンとは、「後輩」や「弟」「妹」といった年下のことをさす。
つまり、ラップノーンは「後輩受け入れ」の儀式である。
だが、実際に受け入れられるまでは、相当に厳しい先輩からの試練を乗り越えなければならない。
1年生は期間中毎日、太鼓にあわせて踊ったり、声だしをさせられたりする。
後輩いびりをモロにくらう。
一見するといじめにも思える場面もあるが、だからといってラップノーンに教員が口を出すことはない。
あくまでもラップノーンは学生のなかで年功序列をはっきりさせるものであり、学生の社会活動だからだ。
ラップノーンの試練を乗り越えてこそ、新入生たちは真の学科の構成員になれるのである。
そんなラップノーン最終日、僕はチラリと見学に行ってみた。
おい、おい。いきなりの泥まみれ。目隠しもされている。
どうやら、この泥の道を蒲伏で通らされたようである。
さすが、最終日。ノリが激しい。
新入生は泥だらけのまま、パウダーが入った風船を頭で割るゲームや、皆の前での踊りなんかをさせられる。
ドンドコ・ドンドコ、鳴り響く太鼓。
それに合わせて踊る新入生に、笑う上級生。
こうしてある種、厳しい言葉や、辱め(?)を受けて、新入生は鍛えられていくのだ。
それにしても、しつけ役の2年生のなかで、一部の子達は本当に怖かった。
「○○、こわ〜い」
つい、僕は何度も口に出してしまった。
すると、キっと振り向かれて、
「先生にも新入生と同じくラップノーンしてあげようか?」
なんて笑われる。
でも付け加えて、生徒は言う。
「私は本当は性格がいいのよ」
そう彼女ら2年生は、ラップノーンの期間中だけ1年生に異常に厳しくあたっている。
実際、期間が終わるとあの恐怖の姿はどこへやら。新入生と仲良く遊ぶ姿が見られる。
その姿はなんだか微笑ましい。
儀式を乗り越えてこそ、新入生同士の絆はもとより、先輩とのそれも深まるってわけである。
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